13.エアプレスト
NIKEのシューズが好きだ。
小学生の頃にマイケル・ジョーダンが世の中を席巻し、バッシュだけでなくシューズもNIKEの時代がやってきた。
それからちょっとした回り道がありながら、大人になった今ではNIKEのシューズしか履かなくなった。
気に入ったシューズを見つけると、色違いなどで複数購入し、履きまわす。
デザインやカラーリング、ブランドとのコラボなどよりも履きやすさ(クッション性)と通気性を重視する。
結果的に、この数年でサンダルタイプの「キャニオン」を6足、足袋タイプの「エアリフト」を5足買って履き潰した。どちらも履き心地が最高で、色々な人におすすめしている
そうした中、今一番ハマっているシューズは「エアプレスト」である。
元々は私が中学生の頃に発売されており、多くのカラバリで当時のファッション誌を賑わせていた。
エアマックスブームはリアルタイムで体感していなかった世代だが、エアプレストブームはギリギリ体感することができた。
背伸びして那覇などの都会に行くと、おしゃれなお兄さん・お姉さんがチラホラ履いている。東京の原宿という場所にある小さいお店(セレクトショップ)に高額だけどこの人気カラーモデルが売っているらしいと、地方に住む中学生からすると「手の届かない、でも俺らのオシャレの最高峰」にエアプレストが位置していた。
ある時、友人の比嘉くんから衝撃の言葉が飛び出す。
「俺のお母さん、基地の中で働いているから安くでNIKEのシューズ買えるよ」と。
少しだけ解説が必要な言葉だろう。同級生で親友の比嘉くんの母親は、嘉手納基地の中のコストコ的な量販店で働いており、関税もかからず、安い価格でエアプレストが手に入るとの話だった。
ウチナーンチュは買い物はおろか、米軍基地に入ることすらできない。しかし、比嘉くんの母親の様に関係者がいれば入って買い物ができたのだ。
手が届かないと決めつけていたエアプレストが目の前に現れた。私たちは雑誌の中のエアプレストのカラーリングを徹底的に分析し、友人同士カラーがダブらないように談合を始めた。
眠る前にエアプレストのことを考えてニヤニヤしていた。比嘉くんの家にいき、お母様への挨拶も済ませ「多分6,000円くらいで買える」との言葉をもらい、購入計画は最終段階を迎える。
そうした時に、あの日がやってきた。
2001年9月11日。そう、アメリカ同時多発テロ事件である。
あの日以降、大量の米軍基地を抱える沖縄も厳戒態勢となった。多くの修学旅行が中止となり、沖縄経済もピンチとなった。
窮地に立たされたのは私たちも一緒だった。嘉手納基地のレギュレーションが厳しくなり、外部の人間は入れないし、買い物についても制限がかかったのだ。
結果的に、エアプレストは買えなかった。アメリカ本土でのテロ事件が、私のファッションにも影響するのかと実感したできごとだった。
あれから20年以上の月日が経ち、今ではエアプレストの人気も無くなり、お店でも通販でも普通に買うことができる。不人気のカラバリであれば、セールで6,000円ほどだ。結果的として20年越しにフェンスの中に入った感じだ。
こうした色々な思いを含めて踏みしめて歩いている。