10.ニコラス武
「一番好きなYouTuberは?」と聞かれると即答で「ニコラス武」と答えるだろう。
数年前、息子がバスケ部に入った。私も元バスケ部なので嬉しくなり、息子とバスケの話をすることが増えた。
「そういえばお父さんが子どもの頃はアイバーソンというスーパースターがいて…」と昔語りを始め、YouTubeでNBAハイライトを見せる。私なりの英才教育だった。
結果、YouTubeのアルゴリズムでNBA関連動画をオススメされることが増え、私はNBA YouTuber・ニコラス武の動画と出会ってしまった。
バスケ好きのおじさん達からツッコミが入らないよう保険に保険をかけた言い回し、抑えようとしても漏れてしまう贔屓チームへの期待、そして心底バスケが好きなんだろうと伝わってくる雰囲気…。
私はニコラス武に魅了され、サブチャンネルを含め過去の動画を3度ずつ見直す。
動画を投稿し始めた時はアメリカの高校生だった彼。声が明らかに高く、YouTubeの動画上で少年から青年へ変化するのを見届けることに成功している。もう、息子の成長を見守る父親のようだ。
そんなニコラス武さんのおかげで、私は20年ぶりにバスケ熱が復活し、今ではNBA観戦(現地ではなく動画でだけど)を趣味とするまでになった。
今では様々なNBA YouTuberを覚え、生活の合間で楽しませてもらっている。
結果「ニコラス武→ポリタス→東野VS→ゆっくり不動産→孫六Shower TV→monograph」的なジャンルレスのYouTubeリレーを行なっている。
NBA好きであることに偽りはないが、ふと「私はNBAよりもニコラス武が好きで見ているのではないか?」と思うことがある。息子の成長を見ているように、若くて才能に溢れて人間味溢れるニコラス武さんが大好きなのだ。
この「ニコラス武推し」の今に、不思議な感覚を覚えることがある。
それは私が、ガジェット系ポッドキャスターとして2012年ごろからラジオ番組を始めた時の記憶だ。
当時はモバイルプリンスと名乗ってはいたが、ただ名乗っているだけのなんの実績もない若者だった。
本当に小さく、手弁当で友人と始めた番組は徐々に広がりを見せていく。
2014年ごろには、東京で番組のイベントを行うとたくさんの人たちが来てくれた。
ほとんどが10歳以上年上のおじさんだった。同じ趣味を持つ、仲間のような人たちが全国にたくさんいて、頼もしくもあり、すごく楽しい時間を過ごした。
みんな私よりだいぶ年上だったけど、かなりリスペクトを持って接してくれた。
そこから私の活動も広がり、会社員をやめて「モバイルプリンス活動」でどうにか生計を立てられるようになった。私の活動の広がりや、状況の変化によって番組はしばらくして終了する。
番組を終了させた事に後悔はない。やり切った自負はあるし、ある種の役割は果たしたと思う。
その一方で、コミュニティごと無くなったような状況は少しの寂しさはある。
今、ニコラス武さんにハマっている私は、当時の「モバイルプリンスの番組を聞いてくれてた」おじさんの立場なのかもしれない。一度は通過したあの雰囲気を、ニコラス武さんを通すことでもう一度味わおうとしているのだろう。
年を重ねると、似たシュチュエーションに違う立場から遭遇することがあるのが本当に面白い。
(なお、息子はバスケ部を辞めたため、私のバスケ熱だけが残ることとなった)